プリズムのプログラムノート

2016. 7. 7 近江楽堂


          プリズム・バロック


1 : G. P. チーマ( c.1570 - 1622 )/3声部のソナタ

  Giovanni Paolo Cima / Sonata à 3 ( from "Concerti ecclesiastici”, 1610 )


2 : F. ジェミニアーニ ( 1687 - 1762 )/スコットランド歌曲によるソナタ

  Francesco Geminiani / Air made into Sonata ( from A Treatise of Good Taste in the Art of Musick”, 1749 )

Grave ( The Broom of Cowdenknows ) - Andante ( Bonny Christy ) - Grave - Presto


3 : G. ケラー 1655 - 1704 )/3声部のソナタ

  Godfrey Keller / Sonata No.5 à 3 ( from 8 Sonates à3 parties", 1700 )


AdagioAllegroAdagioAllegroAdagio - Allegro - Adagio - Allegro


4 : G. ベーム ( 1661 - 1733 )/アルマンド、サラバンドとドゥーブル

  Georg Böhm / Allemande, Sarabande & Double ( from Suite no. 7 F major )


5 : G. Ph. テレマン( 1681 - 1767 )/トリオソナタ イ短調 TWV42:a4

  Georg Philipp Telemann / Trio Sonata A minor TWV42:a4 ( Trio no. 5 from "Essercizii musici”, c.1740 )


Largo - Vivace - Affetuoso - Allegro


ーーーーー(休憩 20分)ーーーーー


6 : F. クープラン( 1668 - 1733 )/コンセール 第5番 ヘ長調

  François Couperin / Concert no. 5 F major ( from "Les Goûts reunis, Nouveaux Concerts”, 1724 )


Prélude ( Gracieusement ) - Allemande ( Gayement, et les croches égales )

  - Sarabande grave - Gavotte ( Courantment, et croches égales ) - Muséte dans le goût de Carillon )


7 : J. オトテール ル・ロマン( 1673 - 1763 )/パッサカイユ ニ短調

  Jaques Hotteterre le Romain / Passacailles ( from Première Suitte de Pièces a deux Dessus, sans Basse Continue "Op. 4, 1712 )


8 : j. S. バッハ( 1685 - 1750 )/トリオソナタ ト長調 BWV525 (オルガンソナタ第1番)

  Johann Sebastian Bach / Trio Sonata G major BWV525 ( Organ Sonata no. 1 )


( Allegro ) - Adagio - Allegro


ーーーーー


歪んだ真珠「バロック」の放つ光を3種類の楽器で分光して様々な色を奏でるプリズム・バロックの演奏会。


バロック音楽は大きく3つの流れに乗っている。ひとつは1600年頃からオペラを創出し音によって感情を表現する新しい音楽を作ったイタリア、もうひとつはルイ14世の統治下で先進国イタリアに対抗して独自の優美さを形作ったフランス、そしてイタリアとフランスの特質を取り入れつつ緻密な構成力で次代につながる音楽を発展させたドイツ。初期には相入れなかったイタリア音楽とフランス音楽もバロック後期になるとそれぞれの趣味を融合した新たな発展をも見せ、ヨーロッパ辺境の異国趣味までも取り込む。


本日のプログラム1曲目は、まさにバロック音楽が「新音楽」として芽吹いたばかりのイタリアで作曲された教会ソナタ。短い曲ながら、変化に富み清新なエネルギーに満ち光と影のコントラスト鮮やかな、バロックの宗教画を彷彿とさせるような音楽。チーマはミラノのオルガン奏者で、1610年に出版された「教会音楽集Concerti ecclesiastici 」には45曲の声楽曲の他に数曲の器楽作品(2声のもの3曲、3声と4声のものがそれぞれ1曲づつ)が収められている。声楽用の作品は概してルネサンス的で保守的だが、器楽曲は新時代の息吹きを感じさせている。


イギリスには17世紀後半からたくさんの音楽家がヨーロッパ大陸各国から移住してきた。そのひとりケラーはドイツ系の名前であるが、ロンドンに来る前の経歴は不明である。1695年にはオルガンとチェンバロの教師として、有名なパーセルと並び称される存在となっていた。また当時ロンドン在住の有名な音楽家たちと公開演奏会で共演し、楽譜も出版されるようになる。変ロ長調のトリオソナタは当時のトップモードだったローマのコレッリのトリオソナタの強い影響下にある。


イタリアのルッカ出身のジェミニアーニもヴァイオリン奏者としてイギリスに渡って音楽活動を繰り広げた。演奏や作曲だけでなく広範囲にわたる教則本(自分の楽器ヴァイオリンに関するものだけでなく、通奏低音やギターのものまで)も著している。ロンドンでの活躍の後アイルランドにも住み、ケルト音楽に傾倒してその教則本も2種類出版している。「音楽の技法における良い趣味の報告」はそのひとつで、スコットランド歌曲に基づくトリオソナタが3曲掲載されている。本日演奏するのはその1曲目で、ふたつのスコットランド歌曲に基づいている。


J. S. バッハの一世代上の鍵盤楽器奏者 G. ベームは中部ドイツに生まれたが北ドイツのハンブルクでも学んでいる。外国文化を広く受け入れていたハンブルクで学ぶことで、ベームはフランスやイタリアの様式にも通じていた。11曲残されているベームの組曲はハンブルクで活躍していた鍵盤楽器奏者ラインケンの影響を強く受けており、またラインケンとベーム両者の音楽がその後のバッハに与えた影響も大変に大きなものがある。


ドイツ人作曲家でフランスにおいても高い名声を得たのはテレマンをおいて他にはいない。彼の音楽家としての最初の赴任地は現在のポーランド領であり、自分の音楽のベースにはポーランド趣味があると公言している。エッセルツィツィムジチに収められているイ短調のトリオソナタにも東欧風スラヴ風の色合いが強く出ている。異国趣味は後期バロックの大きな潮流のひとつだ。また、幼い頃から様々な楽器の演奏を独習したテレマンはそれぞれの楽器の特性を活かすことにも長けており、遅い楽章では独特のメランコリックさを湛え、速いテンポの楽章では燃えたぎるエネルギーで疾走する。


ヴェルサイユに勤めた鍵盤楽器奏者フランソワ・クープランは鍵盤楽器のための作品だけでなく合奏曲や声楽作品も残している。フランス趣味の特質はは和声進行にあると当時の人たちも考えていた。クープランのメロディーが魅力的かと問われて首を縦にふる人はさほど多くないと思われる。クープランに顕著なフランス音楽の美点は、不思議な官能性を湛えた和声進行と、ほんのちょっとした装飾音の色合いや微妙な長さで付けられたスラーによって引き起こされる繊細な揺らぎなどにある。「趣味の融合」と題された曲集の第1曲目、前に出版されたコンセール集からの通し番号で第5番のコンセールは、コレッリのソロソナタにも見られるのと同じく、ゆるやかなプレリュードの後に舞曲楽章が続く5楽章構

成になっている。アルマンドは装飾音モルデントが特徴的で八分音符を均等にと書かれたイタリア風の急速なもの、悲痛な表情のサラバンド、軽やかなのにメランコリックなガヴォット、と、ここまではコレッリを踏襲した楽章が並んでいるが、最後はイタリア風のジグではなくフランス趣味のミュゼット(「組み鐘Carillonの趣味による」と付記あり)である。


オトテールはフランス王室に仕えた管楽器奏者の一族で、ルネサンス型からバロック型への木管楽器の発展に大きく貢献した。「ローマ人」というニックネームを持つジャック・オトテールがイタリアに行ったことがある証拠は残っていないが、その作品にはイタリア趣味が上手に取り込まれている。フランスでは、イタリアとは異なり、通奏低音パートを持たない楽曲がたくさん作られたが、オトテールも通奏低音なしの二重奏組曲を3曲出版している。その最初の曲集である作品4の最後を飾るのは長大なパッサカイユ。悲しみを表す下降音型を基に様々なメロディーが繰り広げられる。この組曲は同じ種類の楽器(たとえば2本のフルート、あるいは2本のリコーダーなど)で演奏されることが多いが、タイト

ルページに「第二声部はヴィオールの高い音の弦で演奏しても良い」とあるため、本日はリコーダーとヴァイオリンの組み合わせで演奏する。


バッハの音楽作品を分光する試みは現代においても様々行なわれている(ジャズやロックにさえ!)が、既に18世紀からなされていたし、バッハ自身さえも行なっていた。6曲残されているバッハのオルガンソナタは、オルガンの右手と左手がふたつの旋律楽器、足鍵盤が通奏低音としてはたらく、実質的にはトリオソナタである。バッハが他のバロックの作曲家といちばん違うのはそのポリフォニー(多声音楽)性の濃さである。バッハほど徹底的にありとあらゆる場面で各声部に独立性や独自性を発揮させ、フーガやカノンを多用した人はいない。そうしたことも、ひとりで演奏するオルガンソナタをトリオ編成に分解して演奏することを容易にしている。実際、本日の編曲版も右手パートをリコーダー、左手パ

ートをヴァイオリン、足鍵盤を通奏低音としてのチェンバロに振り分けただけのものである。そして、このソナタは、2つの独奏声部をもつコンチェルトの形式で書かれてもいる。第1楽章ではテュッティのテーマのメロディーはフーガを形成し、ふたつの上声が交互にソリスティックで技巧的な音型を奏でるときにも、テーマのメロディーがその裏で奏でられる。第2楽章では粘着質で苦しみにあふれた2つのメロディーラインが永遠に終わりがこないかと思われるほどに絡み合う。第3楽章は舞曲ベースであるが、ここでもそのポリフォニーとコンチェルトの要素は遺憾なく発揮されている。



*小池耕平 (こいけ・こうへい)リコーダー

 1963年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高等学校卒業。九州大学文学部西洋史学科(フランス近世史専攻)卒業。大学在学中から演奏活動を始める。桐朋学園大学音楽学部研究科(古楽器科リコーダー専攻)を1989年に修了。リコーダーを花岡和生に師事。有田正広、故本間正史、ワルター・ファン・ハウヴェ、故ブルース・ヘインズらのレッスンも受ける。現在、日本各地において、リコーダーのソリストとしてまたバロック室内楽アンサンブルで演奏会を行なっている。また、小学校の訪問演奏活動も続けている。2007年にはヴァイオリンのジーン・キムと韓国公演。2009年の東京リコーダー音楽祭(読売新聞社主催)では 8人のリコーダー・ソリストの一人として選ばれ出演。201011月にはロンドン

のヘンデルハウス博物館のライヴ・ミュージック・シリーズでヘンデルのリコーダーソナタ全曲演奏。故鍋島元子創設の古楽研究会オリゴ・エト・プラクティカ嘱託講師。富山古楽協会のリコーダー講師。

*竹嶋祐子(たけしま・ゆうこ)ヴァイオリン

 福岡県に生まれる。桐朋学園女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部を卒業。ヴァイオリン・室内楽を久保田良作、天野晴司、山根美代子、数住岸子の各氏に師事。レンク国際アカデミーにてシャンドール・ヴェーグ氏に師事。「バッハ・コレギウム・ジャパン」のカンタータ全曲録音プロジェクトや国内外での公演を始め、「オーケストラ・リベラ・クラシカ」「レ・ボレアード」などのオーケストラや室内楽で活動し、各地の音楽祭や芸術祭にも参加している。「アンサンブル朋」メンバー。

*外川陽子(とがわ・ようこ)チェンバロ

桐朋学園女子高等学校音楽科ピアノ科を経て、桐朋学園大学音楽学部古楽器科チェンバロ専攻卒業。ピアノを新井精、大島正泰、チェンバロを有田千代子の各氏に師事。チェンバロ音楽愛好家たちとともに作ったチェンバロの会「Veilchenファイルヒェン」を主宰、チェンバロ・ソロやアンサンブルによる発表の場を設けている。また、毎年ゲストを招いて、様々なアンサンブルによるカフェ・コンサートを企画。2015年春には「ギリシャ神話と聖書の世界」を繰り広げたソロリサイタルを開催。現在はソロ、アンサンブル奏者として、各地で活躍している。「アンサンブル朋」「デュルファール」メンバー。http://veilchen1993.web.fc2.com/



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by flauto_diritto | 2016-07-07 19:00 | Flauto diritto | Comments(0)
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