コレッリのプログラムノート     

リサイタル「イタリアの道」第1回 アルカンジェロ・コレッリ のプログラムノート


アルカンジェロ・コレッリ(1653-1713)
Arcangelo Corelli

アルカンジェロ・コレッリの作品、殊にその作品5であるヴァイオリンのソロソナタ集は18世紀を通じてヨーロッパ各地で版を重ねて出版され続けた。初版がローマで出された1700年には早々とロンドンおよびアムステルダムで海賊版が出版され、以降18世紀も末になる1795年までにに少なくとも40種類の版が確認されている。出版はヨーロッパ各地でみられるが、ロンドンでの再版がことに多い。18世紀にこれほど長期間継続的に広範囲にわたって出版し続けられた作曲家は他に類をみない。ちなみにロンドンを訪問していたハイドンがロンドン交響曲の最後のセット(第99番から104番)を書きあげたのが1795年である。
コレッリの作品が18世紀を通じて「古典」あるいは「規範」とみなされていたのは、これらの数字からも裏付けられる。実際、彼の作品は極限までに切り詰められたシンプルな構成と平明なメロディーそして明確な対位法をもち、バランスよく作り上げられている。古典派の時代にまで影響力を持っていたのは当然だろう。

作品5の編曲版も1702年ロンドンのウォルシュWalshから後半6曲(第7番から第12番「フォリア」まで)のリコーダー用が出版されたのを皮切りに、様々な楽器及び異なった編成のためのものが18世紀中に20種類は数えられる。

また、1710年にアムステルダムのロジェRogerが出版した“コレッリ氏が演奏するとおりに作られたアダージョ楽章への装飾付、第3版”を筆頭に、数え切れないほど多くの様々な装飾案が残されている。ロジェ第3版の装飾はその真作性が疑われているが、コレッリの弟子ジェミニアーニが残した装飾案などと比較しても様式的な類似性が高いので、これらは当時の共通スタイルと言えるだろう。この所謂「コレッリ風装飾」は、平明で明快に作曲された楽曲を、混沌の淵に陥れんばかりに、旋風の如く、怒涛の如く、情念の渦巻きの如く、透明感あふれる元の楽譜に飾りをつけていく。
当時のコレッリの人物評には「知的で優雅、かつ哀愁を誘う」というものもあり、また、静謐な環境で納得いくまで自作の校訂をしたとも伝えられている。しかし他方、演奏の際には「顔をゆがめ、目に赤い炎を宿し、苦悶する如く目をぐるぐるさせて」ともいわれている。印刷譜に記された音符と即興的な装飾との間の乖離は、彼自身の二面性と相照らしているように感じられる。

1702年のウォルシュ版を「しろうと編曲」と呼ぶ向きもあるが、その言はあまり正確ではない。容易に吹けるように単純化されたこの編曲は、正確には「しろうと奏者向けの編曲」と言うべきだろう。有名なあの曲を簡略化し安易な調に移調して誰でも吹けるように、というのは現代でもよくあるやりかただ。また、リコーダー向けには1707年に同じウォルシュから第3番と第4番をアレンジしたものを含む曲集が出されている。こちらは1702年版とは編曲のコンセプトが異なり、原調のままで簡略化を控えたもので演奏の難度が高くなっている。緩徐楽章には装飾が施され、重音部分は分散和音に書き換えて処理され、場合によっては元のメロディーより凝った音形に書き換えられている。しかしこの編曲にも問題がある。重音部分をあまりにも画一的に分散和音化しているため、原曲のリズム感が犠牲となり単調になっている。
笛用の編曲版はもう一種類、1754年にパリで出版されたトラヴェルソ(横吹きフルート)のためのもの(第1番から第6番まで)もある。この版ではトラヴェルソに適した調への移調が行われていて、ヴァイオリン的な音形や重音部分を笛的に書き換えた処理がなされている。

今回の演奏会のために新たなアレンジを行った。ウォルシュ版のアイデアを採用した個所は少なく、1754年のパリ版に示唆を受けた部分は多いがそのまま援用した個所は少ない。アレンジの基本姿勢は原曲のイメージを保持しつつリコーダーの音楽として響くようにということである:1)重音を分散和音にするのは極力避ける。2)対位法的な重音奏法部分は、リコーダーとオルガンの右手に分担、あるいは重要な流れを抜粋して一つの旋律として書き換える。3)移調した曲では通奏低音は可能な限り原曲の音形やオクターヴ関係を保持する。
 
作品5以外にもコレッリ作として伝承されているヴァイオリンソナタが多数存在する。信憑性の薄いものがほとんどだが、1697年にアムステルダムのロジェが出版した“アルカンジェロ・コレッリ及びその他の作曲家によるヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ集”にはコレッリ作と書かれたソナタが4曲収録されており、真作の可能性が最も高いものである(ただし曲集の表紙にはコレッリの作品5(!)とあり、作曲者の承諾なしに出版されたことを暗に物語っている)。この曲集第4番ニ長調のヴァイオリンソナタには7種類の筆写譜が存在しており、少なくとも同時代の人々はコレッリの作とみなしていたようだ。パルマにある筆写譜はリコーダー用に短三度上げてへ長調に移調されている。ロジェ版とパルマ版とを比べるとかなりの違いが見られる。一長一短があり、おそらく双方の基になった原典が存在すると思われる。今回、想定される原曲の姿に近い楽譜を両者から作った。


program

1:ソナタ ヘ長調 作品5-4
  Sonata Quarta Fa maggiore Opera 5
   Adagio – Allegro – Vivace – Adagio – Allegro
     (Flauto , Cembalo , Organo , Viola da gamba)

2:ソナタ ハ長調 作品 5-3
  Sonata Terza Do maggiore Opera 5
   Adagio – Allegro – Adagio – Allegro – Allgro
    (Flauto , Cembalo , Organo)

3:ソナタ ハ短調 作品 5-5 (原曲:ト短調)
   Sonata Quinta Do minore Opera 5 (originale : Sol minore)
    Adagio – Vivace – Adagio – Vivace – Giga(Allegro)
       (Flauto , Cembalo , Cembalo e Organo , Viola da gamba)

~~~~休憩~~~~

4:ソナタ ト短調 作品 5-8 (原曲:ホ短調)
   Sonata Ottava Sol minore Opera 5 (originale : Mi minore)
    Preludio(Largo) – Allemanda(Allegro) – Sarabanda(Largo) – Giga(Allegro)
        (Flauto , Cembalo , Viola da gamba)

5:ソナタ ヘ長調 Anh.34 (原曲:ニ長調)
   Sonata Fa maggiore Anh.34 (originale : Re maggiore)
    Grave – Allegro – Adagio – Allegro – Adagio – Allegro
        (Flauto , Cembalo , Viola da gamba)

6:フォリア 作品5-12
   Follia
       (Flauto , Cembalo , Cembalo e Organo ,Viola da gamba)

リコーダー:小池 耕平
チェンバロ:鴨川華子  オルガン&チェンバロ:三橋桜子  ヴィオラ・ダ・ガンバ:中野哲也

a0012728_15453565.jpg
リハーサル中
オルガンとチェンバロをお願いしたふいご屋さんのブログから画像をいただきました。
[PR]
by flauto_diritto | 2008-10-30 19:00 | Flauto diritto | Comments(0)
<< 「イタリアの道」作曲家別シリー... 岩木山 >>